10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「……わかった。変えないから」
その言葉に、胸の奥が一気に緩む。
恐る恐る顔を上げると、社長は腰に手を当てて、「しょうがないな」と小さく笑っていた。
その顔を見た瞬間、さっきまで腕の中にいたことを思い出してしまって、また心臓がうるさくなる。
さっきまで、この人に抱きしめられていた。そう思うだけで、呼吸が少しだけ乱れる。
「くれぐれも、あいつには近づくなよ」
ポン、と頭に手が置かれる。その大きな手の温度に、また胸がきゅっとなる。
「……はい」
小さく返事をした声は、たぶん届いていない。
そのまま社長は会議室を出て行った。残された静けさの中で、私はただその背中を見送ることしかできなかった。大きくて、まっすぐで、私なんか簡単に抱きしめられる背中。さっき触れた、その手。あの温度がまだ、頬に残っている気がする。
井口に頭を撫でられたときとは、まったく違う感覚だった。優しいとか、安心するとか、そんな言葉では足りない。
どうしようもなく胸が苦しくなるのに、それなのに嫌じゃない。
むしろ――少し、もっとと思ってしまう。
そんな気持ちを自覚してしまった瞬間、私はもう誤魔化せなかった。