10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
言いたいことをぐっと飲み込んで、私は書類を机の上に置いた。
「それでは」
必要以上に長居するのは危険だ。そう判断して背を向け、扉へと向かおうとした、その瞬間だった。
「まて」
低く響いた声と同時に、ぐいっと腕を引かれる。驚く間もなく身体が引き寄せられて、気づけば腰に回された手に閉じ込められていた。
「ちょ、社長っ……」
抗議の言葉は最後まで続かない。近すぎる距離。触れられている場所から伝わる体温。何度経験しても慣れないこの感覚に、心臓がうるさいくらい強く跳ねる。
「そろそろ、籍を入れる気になったか?」
低く甘い声がすぐ近くで響いて、心臓が一瞬止まりそうになる。
「…っ、だから、それは」
言葉を濁した私の顔を覗き込むように、蒼さんがくすっと笑う。その表情があまりにも柔らかくて、一瞬だけ見惚れてしまった。でも、すぐに我に返って視線を逸らす。
「来年のプロジェクトが上手くいったらって話じゃなかったですか?」
少しだけ拗ねたように言うと、「はは、そうだったな」と楽しそうに笑われる。
また、待たせてしまっているのかもしれない。そんな不安がふと頭をよぎって、思わず蒼さんを見上げる。でも彼は、そんな私の気持ちなんて全部お見通しみたいに、ただ穏やかに笑っていた。