10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない



書類を胸に抱えて、静かに廊下を歩く。向かう先は社長室。
ドアの前にたどり着いたその瞬間、中から扉が開いて、神宮寺さんと目が合った。軽く頭を下げると、神宮寺さんも穏やかに微笑んで応じる。

その表情は落ち着いているけれど、いつも社長に振り回されている姿を見ているので、勝手に心の中で、お疲れ様です、と呟く。
本当にあのとき、社長秘書になる道じゃなくて、同居を選んだ自分を褒めてあげたいくらいだ。あんな人の傍で四六時中働くなんて、きっと気が休まらない。

くすっと小さく笑いながら、私はドアをノックした。


「どうぞ」


低く落ち着いた声が中から返ってきて、ゆっくりと扉を開ける。


「経理部の白石です。さきほどの件の書類、持ってきました」


事務的にそう告げて顔を上げた瞬間、視線の先で、彼が頬杖をつきながら楽しそうにこちらを見ていた。


「な、なんでしょう?」


思わず戸惑いが声に出ると、彼はふっと口元を緩める。


「いや。ここに梨沙が来るのは初めてだなと思って」


一瞬、呼吸が止まった気がした。

……り、梨沙って。

会社なんですけど…!


「だ、誰かに聞かれたらまずいですよっ!」


慌てて声を潜めて抗議すると、彼は呆れたように肩をすくめる。


「まだそんなこと言ってんのかよ」


その余裕そうな態度に、思わずため息が漏れた。

あのですね、社長?あなた、自分がどれだけ女性社員から人気あるか、本当にわかってないんですか?


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