10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
そっと背伸びをして、唇を重ねる。一瞬だけ触れるはずだったそのキスは、思ったよりもずっと長く感じて、離れた瞬間、時間が止まったみたいに静まり返った。
目の前で、蒼さんが珍しく目を見開いている。その表情があまりにも意外で、思わず息を呑んだ。いつも余裕で、何でも見透かしているみたいな彼が、こんな顔をするなんて。
「会社ではこういうの、しないんじゃなかったか?」
ニヤッと意地悪く笑いながらそう言うくせに、蒼さんの腕は迷いなく私の体を抱き上げていた。ふわりと視界が揺れたかと思うと、次の瞬間にはデスクの上に座らされていて、状況の変化についていけずに息を呑む。
「しゃ、社長…?」
思わず出た呼び方に、「蒼だろ?」とすぐに返される。
「蒼さん、あのっ…?」
戸惑いを隠せない私を見下ろしながら、蒼さんはゆっくりとネクタイに指をかける。シュル、と音を立てて緩められるそれを、なぜか目で追ってしまう自分がいた。
余裕の笑みを浮かべたまま、じっとこちらを覗き込んでくる視線に、鼓動がどんどん速くなる。
えっと……この状況は、どう考えてもおかしい。
「仕事中ですよ、蒼さんっ!」
こんなつもりじゃなかったのに!ほんの少し勇気を出してキスしただけなのに!
なのに、どうしてこんな展開になっているのか、頭が追いつかない。そんな私の様子を見て、蒼さんは楽しそうに小さく笑った。その笑みが、いつもよりもずっと危険に見える。
「それ、さっき言ったよな」
低く囁かれたその声と同時に、問答無用で体が押し倒される。背中に感じるデスクの硬さと、すぐ上にある蒼さんの体温。逃げ場なんて、最初からどこにもなかった。