10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
買収された理由…。
耳にする噂は山ほどあったけれど、どれも真偽は不確かで、私自身も正確には知らない。
黒崎グループに買収される前の星川商事は、業界でも名の知れた大手企業で、安定感と信頼を兼ね備えていたはずなのに、どうして買収されることになったのかは謎のままだった。
社内では、社長の横領だの脱税だの、あるいは女性問題やスキャンダルまで、勝手な想像が勝手に膨らみ、噂話が次々に飛び交っている。
金曜の夜の居酒屋に響く笑い声や、グラスがぶつかる乾杯の音の中で、私と井口は自然と前のめりになり、紗耶香の次の言葉に耳を澄ます。
「紗耶香は知ってるの?」
私が思わず声をかけると、紗耶香は小首をかしげて、少し声をひそめながらも自慢げに言う。
「こそっと、上の人たちの会話聞いちゃったんだよね…」
「で?なんだったんだよ?」
井口も身を乗り出し、枝豆をつまむ手を止めてじっと見つめる。私たち二人の期待に満ちた視線を一身に受けながら、紗耶香は小さく息をつき、少し間を置く。
紗耶香は周りの卓の客に聞こえないように、少し身を乗り出して私の耳元に顔を近づけ、小声で言った。
「…政治家に賄賂送ってたんだって」