10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
その瞬間、居酒屋のざわめきや笑い声が遠くに感じられ、私の鼓動が一気に早くなり、思わず息を呑む。
「……え?」
「まじ?」
自然と声が漏れかけ、手元のグラスが微かに震える。
賄賂…?賄賂ってことは、やっぱり。
「…私が気づかないうちに処理したものもあるってこと…?」
経理部に所属し、日々帳簿と向き合っている私にとって、自分の知らぬ間にそんなことがあったなんて想像もしていなかった。
サーっと血の気が引き、アルコールで火照っていた体も、一瞬で凍りつくように冷めていった。
視界が少しぼやけ、呼吸が浅くなるのを感じる。
「梨沙、それは心配ないよ」
紗耶香は落ち着いた声で続ける。
「社長決裁で、急ぎで処理するよう頼まれた案件で、違和感を感じた経理部長が支払先の会社を調べたら、過去の支出が高額だったんだって。その支払先会社が政治家と関係していたらしくて、自分だけじゃ手に負えないと思った経理部長が、格上の黒崎グループに助けを求めたってわけ」
聞きながら、私は頭の中でその全体像を整理しようと必死になる。
額に汗が滲み、手に力が入る。