10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない



指先が触れた瞬間、びくっと肩が揺れた。

優しく撫でるその手は、あたたかくて、くすぐったくて、思わず目を閉じてしまう。

ドクン、ドクン、と心臓の音がうるさい。

さっきまでの怒りなんて、もうどこにも残っていなかった。ただ、この人に触れられていることだけが、やけに鮮明に意識に残る。


……ずるい。本当に、ずるい。こんなの、反則だ。あんなふうに突き放しておいて、こんな優しくするなんて。どうしたって、振り回されるに決まってる。嫌だって思ってるのに、離れたいって思えない。


「梨沙。明日、また話そう」


静かにそう言って、黒崎社長は私をまっすぐ見つめる。

その目はさっきよりもずっと穏やかで、優しくて、逃げることを許してくれない。


……なんでそんな顔するの。なんで、名前で呼ぶの。聞きたいことも、言いたいことも、本当はいっぱいある。

さっきの言葉の意味も、この状況の理由も、全部ちゃんと知りたいはずなのに。


それなのに――今は、どうでもよくなってしまう。

この人のすぐ近くにいられることが、こんなにも心を満たしてしまうなんて。

どうして、そんなふうに思ってしまうのか、自分でも分からない。

ただ一つ分かるのは、もうすでに私は、この人に振り回されているということだけだった。


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