カーテンコールはまだ鳴らない。
視線を前に戻し、いつもの落ち着いた歩調で歩き出した。
「……なら、よかったです」
その⼩さな呟きは、響華の⽿に、かろうじて届くかどうかの声だった。
警視庁に戻った⼆⼈は、それぞれ⾃分のデスクに戻り、
今担当している指定暴⼒団体――『⻯崎組』についての調査に
取りかかっていた。
⻯崎組は、この市に事務所を構える、そこそこ勢⼒の強い暴⼒団だ。
これまで⼤きな動きはなく、警察に対する⽬⽴った反抗姿勢も
⾒せてこなかった。
だが最近になって、薬物の斡旋を⾏っているらしいという噂や、
⼭中で発⾒された遺体が⻯崎組の元構成員だったらしい、
といった不審な情報が⽴て続けに浮上している。
そのため、逮捕に踏み切れる証拠や⼿がかりを掴むべく、
この件を任されたのが――響華と蓮の⼆⼈だった。
……正直、異常だ。
こんな規模の組織を、ツーマンセルだけで追えというのは、
どう考えても無理がある。
響華は資料室から借りてきた⻯崎組構成員の前科リストのファイルを
めくりながら、深くため息をついた。
並んでいるのは、万引き、轢き逃げなどが数⼈。
とはいえ、被害者は捻挫や打撲といった軽症ばかりで、
万引きに⾄っても、スーパーでパンを⼀つくすねた、などという軽微なものも多い。
――真っ⽩だ。
構成員の中に、薬物関連の前科者が⼀⼈もいない。
この状態では、そもそも薬物斡旋の噂⾃体が事実なのかどうか、
疑われてしまう。
流通先も、ルートも、何⼀つ⾒えてこない。