社長、その溺愛は計算外です

「口にした瞬間、自分でも驚いた。あんな感情的なことを言ったのは、たぶん人生で初めてだった」

圭佑さんが、小さく息を吐く。

「……今みたいな顔をされると、帰したくなくなる」

「え……?」

圭佑さんが、少し視線を逸らした。

「困った顔で、そんなふうに笑うな。理性が危うくなる」

「……っ」

心臓が、大きく跳ねた。

「今思えば……あの時点でもう、手遅れだったんだろうな」

そう言って私を振り返った彼の瞳には、夕暮れのオレンジ色が溶け込んで、ひどく優しく見えた。

タクシーが、赤信号で止まる。

圭佑さんが、私の手をそっと握り、窓の外を見つめながら言った。

「梓」

「はい」

「俺と一緒に、これから先も歩いてほしい」

「もちろん。一緒に歩きます。どこまでも」

タクシーが動き出した。

窓の外に、夜の東京が広がっていく。イルミネーションが、夕暮れの空に輝き始めていた。

麗華さんは、今頃どうしているだろう。

「初めて自分で何かを決めた気がします」と言っていた彼女が、自分で選んだ道を歩き始めていると信じたい。

圭佑さんが、繋いだ手に少しだけ力を込めた。

「寒いか?」

「いいえ」

「そうか」

窓の外を流れる夜景を、二人でしばらく眺めた。

言葉はいらなかった。

この温もりが、ここにある。それだけで、十分だった。
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