社長、その溺愛は計算外です
「……もし、君のご両親に嫌われたら。桐原会長の時は自分の親だから、腹をくくれた。だが、梓のお父さんは違う。梓が本当に大切にしている人だから」
「嫌われないと思いますよ」
「根拠は?」
「圭佑さんが、私を大切にしてくれているのは、見れば分かるから」
圭佑さんが、降参したように目を細めた。
「梓は、たまにずるいことを言う」
「ずるくないです。事実を言っているだけです」
彼が、口元を緩めた。
窓の外で、住宅街が流れていく。
都心の高層ビル群とは、何もかもが違う景色。大きな家があるわけでも、手入れの行き届いた日本庭園があるわけでもない。
ただ、普通の街並みがある。
私が育った場所だ。
「圭佑さん」
「ん?」
「私、ここで育ちました。たいして特別なものは、何もない場所です」
「そんなことはない」
圭佑さんが、走馬灯のように流れる街並みをじっと見つめる。
「今の君を形作った、全ての原点がここにある。これ以上に特別な場所が、他にあるか?」
それだけ言って、彼はまた窓の外に目を戻した。
本人には、今の言葉がどれだけ重いか、欠片も伝わっていない顔で。