社長、その溺愛は計算外です
帰り道、駅へ向かう商店街を二人で歩いた。
夕暮れの空が、橙色に染まっている。
「……良かった」
圭佑さんが、空を見ながら言った。
「君のお父さんに、認めてもらえた気がするよ」
「認めてもらえましたよ、絶対に」
「根拠は?」
「もう! その聞き方、やめてください」
圭佑さんが、声を出して笑った。
しばらく、二人で黙って歩いた。
「梓」
「はい」
「お父さんと、少し似ているな」
「どこが?」
「寡黙で、真面目で。でも、大切な時に一番の言葉を言う」
私は、少し考えた。
「……そうかもしれない」
「それが、君の一番好きなところだ」
圭佑さんが、私の手を握った。
商店街の灯りが、一つずつ点り始めていた。
「圭佑さん」
「ん?」
「連れてこられて良かったです。ここに」
「俺も」
彼が、指を絡めてきた。
「ありがとう。梓の大切な場所を、見せてくれて」
夕方の商店街を、二人で歩いた。
背後から、夕飯の香りが漂ってくる。
どこにでもある、普通の街の夕暮れ。
それでも今夜だけは、この景色が、世界で一番美しいものに見えた。