社長、その溺愛は計算外です

「この人の前ではそうじゃないお前でいられるなら、それでいい。梓が幸せでいてくれれば、何も言うことはない」

目の奥が熱くなった。泣くまいと思っていたのに、唇が震えた。

「……はい」

絞り出すように答えると、母が「もう、お父さんったら。私まで泣きそうじゃない」と言いながら台所に消えていった。

テーブルの下で、圭佑さんの手が私の手に重なった。

父には、見えていなかったかもしれない。

でも、私には分かった。

その指先が、微かに震えていた。

この人も、必死だったんだ。ずっと。

「桐原さん」

父が、圭佑さんを向いた。

「……いや、圭佑さん」

その呼び直しに、私は思わず顔を上げた。

「梓を、頼む」

ぶっきらぼうな言い方だった。でも、その奥にある感情は、痛いほど伝わった。

「……はい。必ず、幸せにします」

圭佑さんが、深く頭を下げた。
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