社長、その溺愛は計算外です

帰り道。タクシーの中で、私は窓の外を眺めていた。

夜の東京が、光の川のように流れていく。

「梓さん」

「はい」

「今夜、来てくれてありがとうございました」

「こちらこそ。素敵な場所でした」

しばらく、二人とも窓の外を見ていた。

「梓さん」

圭佑さんの手が、私の手をいつもより強く握った。

「……今夜、何度も」

「何度も?」

「君を、会場から連れ出したいと思った」

「……っ」

心臓が、耳元で鳴っているかと思うほど激しく跳ねた。

「パーティー会場から。人の目から。全部から」

低い声だった。制御しようとして、しきれていない声。

仕事中には決して見せない、彼の剥き出しの熱に、私は息をすることさえ忘れてしまいそうになる。

「圭佑さん……」

「合理的じゃないのは分かっている。でも、今夜だけは」

彼が、一度だけ目を閉じた。

「……すみません。忘れてください」

忘れられるわけがなかった。

窓の外の光が、ゆっくりと流れていく。

その言葉を、胸の中でもう少しだけ温めていたかった。

「梓さん」

「はい」

「さっきの女性のこと、気になりましたか」

その問いに、私は目を見開く。

「……少し」

正直に答えると、圭佑さんが前を向いたまま言った。
< 81 / 124 >

この作品をシェア

pagetop