社長、その溺愛は計算外です
「あの人は、仕事上で関わりのあった方です。ただ、それだけの関係ですが」
「聞いていいんですか、そんなこと」
「梓さんには、知っていてほしいと思いました」
「……」
「さっき、梓さんの表情が変わったのが分かった。だから」
「色々とご事情、という言葉が」
「……聞こえていましたか」
「はい」
圭佑さんが、窓の外に目を向けたまま言った。
「梓さんに、隠し事はしたくない。ただ、全部を話せる日が来るまで、もう少しだけ待っていてもらえますか」
「……分かりました」
今すぐ答えを求めることはしない。
レストランの時、『いずれ話せる日が来ると思います』と言っていた。
今夜は、『もう少しだけ待っていてほしい』と言った。
同じ意味でも、今夜の言葉の方が、一歩近くなっている気がした。
「今夜、梓さんが僕の隣にいてくれて良かったです」
「私も……今日、来て良かったです」
タクシーの窓の外で、東京の夜景が流れ続けていた。
「梓さん。一つだけ、確認させてください」
「何ですか?」
「今後も、婚活は続けるつもりですか」
「え?」
冗談を言っているような顔ではなかった。
暗い車内でも分かるほど、その瞳は真剣で、どこか何かに追い詰められているような──縋るような光を帯びていた。
「……それは、どういう意味ですか?」