社長、その溺愛は計算外です

第7話 嘘つき、と言いたかった


パーティーから二日後の月曜日の朝。

電車の中で、私はこの二週間のことを思い返していた。

雨の中で庇ってくれた腕。ゴールドの柔らかい毛並み。誰にも言えなかったと言いながら、私に話してくれた孤独な一年のこと。

そして、土曜日の夜。シャンデリアの光の中で、圭佑さんがずっと私だけを見ていたこと。

二日前の夜が、まだ夢のように感じられる。

スマホを取り出すと、昨夜届いていたメッセージがあった。

【明日も一日、頑張ってください。
君の笑顔を思い浮かべながら、僕も頑張ります。
圭佑】

その短い言葉が、どれほど私の朝を明るくしてくれるか。

スマホをバッグにしまい、私はいつものルートで会社に向かった。



オフィスに到着すると、何かがおかしかった。

いつもなら明るく返してくれる挨拶が、今日は妙に歯切れが悪い。同僚たちが、私を見ると微妙な顔をする。

どうしたんだろう?

首を傾げたそのとき、休憩スペースの方からざわめきが聞こえてきた。

「桐原グループって……」

「次期会長候補なんだって」

桐原──その名前を聞いた瞬間、胸に嫌な予感が走った。

「新谷さん、これ……」

私に気づいた同期の岡下さんが、恐る恐るタブレットを差し出してくれた。

画面には、経済誌のオンライン記事が表示されている。

その見出しを見た瞬間──私の世界は、音を立てて崩れた。
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