社長、その溺愛は計算外です
第7話 嘘つき、と言いたかった
パーティーから二日後の月曜日の朝。
電車の中で、私はこの二週間のことを思い返していた。
雨の中で庇ってくれた腕。ゴールドの柔らかい毛並み。誰にも言えなかったと言いながら、私に話してくれた孤独な一年のこと。
そして、土曜日の夜。シャンデリアの光の中で、圭佑さんがずっと私だけを見ていたこと。
二日前の夜が、まだ夢のように感じられる。
スマホを取り出すと、昨夜届いていたメッセージがあった。
【明日も一日、頑張ってください。
君の笑顔を思い浮かべながら、僕も頑張ります。
圭佑】
その短い言葉が、どれほど私の朝を明るくしてくれるか。
スマホをバッグにしまい、私はいつものルートで会社に向かった。
◇
オフィスに到着すると、何かがおかしかった。
いつもなら明るく返してくれる挨拶が、今日は妙に歯切れが悪い。同僚たちが、私を見ると微妙な顔をする。
どうしたんだろう?
首を傾げたそのとき、休憩スペースの方からざわめきが聞こえてきた。
「桐原グループって……」
「次期会長候補なんだって」
桐原──その名前を聞いた瞬間、胸に嫌な予感が走った。
「新谷さん、これ……」
私に気づいた同期の岡下さんが、恐る恐るタブレットを差し出してくれた。
画面には、経済誌のオンライン記事が表示されている。
その見出しを見た瞬間──私の世界は、音を立てて崩れた。