社長、その溺愛は計算外です

圭佑さんが、窓の外を向いたまま言った。

「データとして確認したい。今後、婚活パーティーやマッチングサービスを利用する予定はありますか」

「データ……」

「はい。僕がいるので、必要ないはずですが」

そちらを見ると、彼は窓の外に顔を向けたままだった。耳が、赤かった。

今夜、赤いドレスの女性が言った『ご事情』の意味は、まだ分からない。

レストランで見かけた、あの黒髪の女性についても、まだ何も聞けていない。

それでも今夜は──この人の隣で過ごした時間の温もりの方が、ずっと大きかった。

「そんな予定は、ありませんけど」

私がそう答えると、圭佑さんが小さく息を吐いた。

「そうですか」

どこか安心したような、横顔だった。

「……良かった。もし『ある』と言われたら、理論的な説得を試みるまで、君をここから降ろさないつもりでしたから」

冗談のようには聞こえない、真剣な熱を含んだ声。

窓の外を見たままの彼から、逃げ場のない熱が伝わってくるようで、私は小さく息を呑んだ。

「それじゃあ、またパーティーに誘ってもいいですか」

「はい」

圭佑さんが、私の手を取った。

『もう少しだけ待っていてほしい』という言葉の続きを、私はいつか聞くことになるのだろう。

その時に、自分がどう感じるかは、まだ分からない。

でも今夜は──この温もりだけが、確かだった。

もう、仮面なんていらないかもしれない。そう思いかけた夜だった。
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