社長、その溺愛は計算外です
『桐原財閥の若きプリンス、IT業界に旋風。
次期会長・桐原圭佑氏、水沢グループ令嬢と婚約間近か』
画面に躍る文字が、視界の中で歪んだ。
桐原グループ──創業百年の財閥。従業員五万人。総資産十兆円。
そして、水沢グループ令嬢との婚約。年内に発表。
血の気が引いていくのが分かった。
あの洗練されたイタリア語。ソムリエへの自然な対応。高級レストランでの慣れた様子。
全て、生まれ育った世界が違うからだったんだ。
そして──レストランで見かけた、あの女性。
圭佑さんが『知人です』と言って、声のトーンを変えた。
水沢麗華。
記事の写真の中の女性が、あの時のレストランにいた女性と重なった瞬間、頭の奥がずきりと痛んだ。
知っていたのだ、あの時から。少なくとも、顔見知りだった。
そして、土曜日のパーティー。
赤いドレスの女性の声が、耳の奥で蘇った。
『色々とご事情もおありでしょうに』
あれは、婚約のことを言っていたのか。
婚約者がいながら──私を「パートナー」として隣に連れていった。
『この会場で、僕がずっと見ていたのは梓さんだけです』
あの言葉も。
『今夜の梓さんを、俺の隣に置けて良かった』
あの言葉も。
全部、知っていた上で言っていたのだろうか。