没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
けれど、そんなことはどうでもよかった。

(……私が、治さないと)

この人を、守りたい。

そう思った瞬間、胸の奥が強く熱を帯びた。

――それは、ただの使命感ではなかった。

「……動かないでください」

私は息を整えながら、アルセイド殿下の前に膝をついた。

肩から流れる血。

深く裂けた傷は、見ているだけで胸が締めつけられる。

(……こんなに、深い……)

このままでは、確実に悪化する。

「……大袈裟だ」

殿下はそう言うけれど、その声はわずかに掠れていた。

「大袈裟ではありません」

私は首を振る。

「治しますから」

はっきりと告げて、そっと手を伸ばす。

震えそうになる指先を、必死に押さえ込む。

(……大丈夫)

これまで何度もやってきた。

治癒は、私にできること。けれど――

(違う……)
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