没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
目の前にいるのは、ただの患者じゃない。大切な人。

(この人を、失いたくない)

その想いが、胸の奥で強く膨らむ。

私は目を閉じ、傷口に手を当てた。

触れた瞬間、鋭い痛みが走る。

これまでとは比べものにならないほど、重く、深い。

まるで、傷そのものを自分の体に引き受けているような感覚。

(……それでも)

力を、流す。光が、手のひらから広がっていく。

黒く濁った穢れと、血の匂い。

それらをすべて包み込み、浄化していく。

「……やめろ」

低い声が、耳に届く。

「……顔色が悪い」

「大丈夫……です」

そう答える声は、自分でも驚くほど弱かった。

けれど、止めない。

(止められない)

この人を救うためなら――どれだけ削れてもいい。

光が強まるにつれて、視界が揺れる。

体の奥から、何かが抜けていく。
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