没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
かすれた声で、ようやく言葉を紡ぐ。

「失いたく……ないから……」

そのまま、意識が遠のいていく。

腕の中で、殿下の体温だけが、最後に残った。

「セレスティア!」

遠くで、誰かが私の名前を呼んでいる。

(……殿下……?)

意識が、ゆっくりと沈んでいく。

体が重くて、指先ひとつ動かせない。

それでも、その声だけははっきりと届いた。

「俺を治癒して、おまえが倒れるなんて……」

すぐ近くで、低く震える声。

「このまま目を覚まさなかったら、許さないからな!」

その言葉に、かすかに胸が揺れる。

(……そんな……)

怒っているようでいて、どこか必死で。

初めて聞く声音だった。

「……しっかりしろ」

強く抱き寄せられる感覚。腕の中に、包まれている。

温かくて、確かな体温。

(……ああ……)
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