没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
安心してしまう。

このまま、何もかも委ねてしまいたくなるほどに。

「水だ。飲めるか」

唇に、何かが触れる。冷たい感触。

少しだけ口を開くと、水が流れ込んでくる。

けれど――

「……っ」

うまく飲み込めない。

喉に力が入らず、そのまま水がこぼれ落ちてしまう。

「……セレスティア……」

掠れた声。次の瞬間、柔らかい感触が、唇に触れた。

(……え……)

驚く間もなく、ゆっくりと水が流れ込んでくる。

今度は、確かに喉を通っていく。

(これ……)

分かる。これは――

(殿下が……)

口移しで、水を飲ませてくれている。

信じられないのに、拒む力もなくて。

ただ、その温もりを受け入れるしかない。

唇が触れている。息が、近い。

すぐそこに、殿下がいる。

(どうして……)
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