恋愛百景
エピローグ「片思いのその先」

付き合い始めてから、世界が急に変わったわけじゃない。

教室も、帰り道も、いつもの景色のままだ。

それでも、隣にいる柚木の距離だけが少し違っていた。

「亮太、それ何見てるの?」

放課後の教室。机にスマホを置いたまま、亮太はアニメの続きについて調べていた。

柚木は横からのぞき込んでくる。

「別に」

「絶対ハマってるじゃん」

そう言って、柚木は小さく笑う。

その笑い方が、前よりずっと近い。

帰り道。

夕日がゆっくりと二人の影を伸ばしていく。

「今日さ」

柚木がふと口を開く。

「なに?」

亮太は自然に返す。

柚木は少しだけ間を置いてから言った。

「手、つないでもいい?」

亮太は一瞬だけ止まる。

「……今さらかよ」

「今さらでしょ」

柚木は少しだけ笑う。

亮太は小さくため息をついてから、手を差し出した。

柚木がその手を握る。

思っていたより、あっさりとした感触だった。

でも、そのあっさりさが逆に落ち着かない。

「なんかさ」

亮太がつぶやく。

「変な感じだな」

柚木は手をつないだまま前を向く。

「いいじゃん、変でも」

少しだけ風が吹く。

そのまま二人は歩き続ける。

会話は特別多くない。

でも沈黙が嫌じゃない。

むしろ、前よりずっと心地いい。

柚木がふと立ち止まる。

「亮太」

「ん?」

柚木は少しだけ顔を上げる。

「好きだよ」

あまりにも普通に言うから、亮太は一瞬固まる。

「……急に言うなよ」

「言いたくなったから」

柚木は笑う。

亮太は少しだけ視線を逸らしてから、小さく言う。

「俺も」

夕焼けの帰り道。

もう“片思い”ではない二人が並んで歩いていた。
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