Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-
Fade Away
「……ん」
微睡みの中で、ふと首筋に妙な違和感を覚えて目が覚めた。
蒼の腕の中で温かさに包まれていたはずなのに、まるで冷たい風が通り抜けたような——。
「……っ?」
蒼の胸に顔を預けたまま、そっと視線を上げると、信じられない光景が目に飛び込んできた。
私たちが寝ているはずの隠れ家の壁が、まるで古びた絵画が剥がれ落ちるように、パリパリと音を立てて崩れ始めている。その先にあるのは、見慣れた壁ではなく、漆黒の空洞だった。
「蒼……っ、起きて!」
私が身体を揺らすと、蒼もすぐに異変を察知したのか、鋭い瞳で空洞を睨みつけた。
彼の腕の力が、一瞬で強まる。
「……まずいな」
蒼の顔には、さっきまでの穏やかさは欠片も残っていない。
崩れかけた壁から、黒いノイズのようなものが、蛇のように這い出している。それは空間そのものを食い破り、この隠れ家を浸食しようとしていた。
「どうして……どうして、こんなことに……!」
「……お前を幸せにしようと油断したせいだ」
蒼は自嘲気味に笑い、私の首筋の紋章を強く指で押さえた。
紋章が激しく赤熱する。それは痛いほど熱く、私の魂を焼き切ろうとするかのように疼いた。
「昨日、俺たちが愛し合った熱量が大きすぎたんだ。俺たちは、ここでこうして甘く笑い合っているだけで、世界を崩壊させている。…俺たちが一緒にいる時間は、誰かの命を削る“毒”なんだ」
突きつけられた現実に、背筋が凍りついた。
部屋全体が急速に冷えていく。
私たちを包んでいた幸福な時間が、一瞬にして瓦解していく。
ここにいればいるほど、世界は歪み、二人の絆は、同時に世界を滅ぼす引き金になる。
「……じゃあ、どうすればいいの?」
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