Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-



人混みをすり抜けるたび、誰かの視線が私に刺さるのを感じるけれど、蒼がその都度、殺気のような冷たいオーラを放って周囲を威嚇する。



「……蒼」


私が小さく名前を呼ぶと、彼は立ち止まり、背を向けたまま私の耳元まで顔を寄せた。

街の騒音に紛れて、彼の吐息だけが耳元に届く。



「……俺の紋章が、今もお前の首筋で鳴っているだろう? お前は俺の一部だ。俺が壊れない限り、お前も絶対に壊させない」



彼はそう言って、私の頬に一瞬だけ…
本当に一瞬だけ、唇を掠らせた。

公衆の面前でそんなことをするなんて、と驚く私をよそに、彼は何事もなかったかのように再び歩き出す。


「……行くぞ」


荒廃した街並みの向こうに、澱んだ霧が立ち込めている。
歪みが強く蠢いているのを、肌で感じた。

隠れ家での幸せな時間が遠ざかっていく寂しさと、蒼と二人ならどこまでも行けるという強い絆。


私たちは、歪みに満ちたこの街の深淵へと、手を取り合って足を踏み入れた。


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