Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-


街のメインストリートは、薄汚れた霧と、澱んだ感情で満たされていた。

すれ違う住人たちの視線が、私の首筋に刻まれた紋章や、私の“温もり”に絡みついてくるのを感じる。

時折、彼は私の肩に腕を回し、私の身体を自分の懐へと強引に引き寄せた。



「……っ!」


「……静かに」


彼は私の耳元で低く唸ると、殺気立った瞳で周囲を威嚇した。
彼が放つ番人としての圧力に、周囲の住人たちが蜘蛛の子を散らすように道を譲る。


「……お前、自分の匂いがどれだけ目立っているか分かっていないだろ。お前のその“温もり”は、この街の連中にとっては、喉から手が出るほど欲しい“麻薬”なんだ」


蒼は歩きながら、私の首筋を隠すようにコートの襟元を乱暴に正した。

その手つきは、彼自身の所有物であることを誇示するように、何度も私の肌に触れる。


街の中だというのに、彼は一瞬も私から視線を外さず、私を遮蔽物から完全に守り抜こうとしていた。


「…凄い、見られてる」


「少し裏に入るか…」


蒼は立ち止まると、街の影に隠れた路地裏へ私を押し込み、壁に追い詰める。


周囲には誰もいないけれど、すぐ向こうを歩く人の気配がする。

その緊張感が、蒼の独占欲をさらに加速させていた。


「……もう誰の目にも触れない場所に閉じ込めてしまいたい」


そう言って、彼は私の唇にキスを落とした。

淀んだ街の中で、私を自分の色に染め直すように。

何度も何度も、唇を食む。

街の悪臭さえも、彼の香りで塗りつぶされていく。


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