Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-
あまりの速さと容赦なさに、私は息を呑むことしかできなかった。
けれど、蒼はすぐにくるりと背を向けると、私の元へ戻ってきた。
彼は私の顔を両手で挟み込み、無理やり自分の方へ向かせる。
「……紬。見るな」
彼は私の瞳を、自分の手のひらで覆い隠した。
真っ暗闇の中で、彼の激しい心臓の鼓動だけが伝わってくる。
その鼓動は、殺めた直後だというのに、怒りで激しく波打っていた。
「……怖がらせてすまない。あの男がお前の肌に触れようとしたのが、どうしても許せなかった」
彼は私の手を自分の頬に引き寄せ、そのまま私の掌に自分の唇を押し当てた。
「……行こう」
彼は私の首筋に残る紋章を、確かめるように指先で強く押さえた。
紋章が熱く脈動し、私が彼の一部であることを嫌というほど突きつけてくる。
「……街の奥まで、駆け抜けるぞ」
彼は男の消えた跡など見向きもせず、私の手を掴んで力強く歩き出した。
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