Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-


進めば進むほど、街の澱みは濃くなった。

足は鉛のように重くなり、キィィィという高音の耳鳴りが脳を突き刺す。

初めて歪みを見た時と同じ、あの精神が削り取られるような嫌な感覚。

今にも意識が飲み込まれそうになり、私は全身を震わせた。

耐えきれないほどの悪臭が鼻を突き、喉の奥が引き攣る。

私は空いている方の手で口元を覆い、必死に吐き気を抑えながら、繋いでいる蒼の手を折れんばかりの力で握りしめた。



「……っ、蒼……っ!」


耳鳴りのせいで自分の声さえ遠い。


蒼は私の異変をすぐに察したのか、歩みを止めないまま、引き寄せるように私の腰に腕を回して身体を支えた。


「……目を閉じていろ。俺の紋章の熱だけを感じろ」


彼の声が、耳鳴りを切り裂いて耳に届く。


私が鼻を押さえていた腕を解くと、彼は自分の外套を私の肩に掛け、すっぽりと私をその懐へ隠した。

彼自身の体温と、あの安心する香りで私の周囲を塗り潰してくれる。


「……もうすぐだ。…お前はただ、俺の鼓動だけを聞いていればいい」


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