恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
病院の従業員通用口を抜けたところで、ひやりとした風が頬を撫でる。

「ちょっと、冷えてきたかな」

そう言って、倉田幸子は、愛用している紺色のカーディガンのボタンを留めた。
見上げた空は黒い雲が立ち込めている。
雨の匂いがする、と思った次の瞬間だった。

ぽつ、と額に冷たいものが落ちてきた。

「あっ……降ってきた」

傘は、ない。
朝は晴れていたし、仕事へ行くのに荷物を増やしたくなくて、家に折り畳み傘を置いてきてしまった。

周囲でも小さなどよめきが起きている。
病院を出たばかりの人たちが慌てて軒下へ引き返し、タクシー乗り場のほうへ駆けていく人もいる。

幸子は少し迷ってから、小走りに歩き出した。
家まで帰るには駅を越えて、商店街を抜けなければならない。せめて少しでもしのげる場所を探そう。

そう思って、足を進めているうちに、雨粒はたちまち勢いを増し、あっという間に地面を叩き始める。

「え……嘘!」

朝、テレビの天気予報では、夜から崩れると言っていた。
でも、こんな急に、しかもこんな勢いで降るなんて聞いていない。

大通りを一本入った先、昔ながらの店が並ぶ細い通りに入るころには、雨はもう土砂降りだった。
惣菜屋、古びた金物店、年季の入った和菓子屋。昼間はどこかのんびりした空気の漂う下町の通りも、豪雨の中では別の顔をして見える。

幸子は足早に進み、やがてシャッターの下りた小さな呉服屋の軒先に滑り込んだ。
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