恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「おつかれ様です」

都内の総合病院。
閉院時間を少し回った時間の職員通用口は、仕事帰りの職員たちで少しだけ騒がしい。
 そばにある夜間受付では、白衣の看護師や医師が慌ただしく動いていて、受付事務の倉田幸子は、その流れを邪魔しないよう、自然と端を歩く癖がついていた。

 幸子は、人目を引かないように生きるのが当たり前になっている。

 黒髪はひとつにまとめ、飾り気のないブラウスに、何年も着ている紺色のカーディガン。
 足元は歩きやすさ重視のぺたんこ靴で、花も盛りの25歳だと言うのに、オシャレとは無縁だ。
 顔立ちまで地味という自覚はなかったけれど、少なくとも、誰かの視線を集めるような華やかさは自分にはないと知っていた。
 それで困ることもない。
 むしろ、そのほうが都合がいいと思っていた。

 目立たなければ、傷つくことも少ないから。

 定時で上がった幸子は、ため息交じりに時計を見る。
時刻は午後6時07分。
 今日は祖母の病室へ寄る予定はない。必要なものは昨日のうちに届けてある。その時、昼間に検査があって疲れているだろうから、早めに休むと言っていた。
 だからこのまま真っ直ぐ帰って、簡単な夕飯を作って、少しだけ掃除をして、奨学金の返済日を確認して……そんな、いつも通りの夜になるはずだった。

 病院の自動ドアを抜けたところで、ひやりとした風が頬を撫でる。
< 1 / 4 >

この作品をシェア

pagetop