恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「はぁ……」

わずかな時間とはいえ、大粒の雨に当たり、肩口やスカートの裾はかなり濡れている。
額に張りついた前髪を指先で払い、後ろで纏めた髪を黒いゴムで結び直し、幸子は小さく息をつく。


空は真っ暗で、雨脚は弱まるどころかさらに激しくなっていく。
街灯に照らされた雨の筋が、まるで白い幕のように視界を遮っていた。

このままでは帰れない。
コンビニまで走ればビニール傘は買えるかもしれないけれど、そこへ行くまでにずぶ濡れになるのが目に見えている。
服が濡れるのはまだいい、洗えば済む。
でも、バックの中には、病院の事務として働く幸子の制服だけでなく、祖母が入院するための書類も入っていて、できれば濡らしたくはなかった。

軒先に立ち尽くしたまま、幸子は雨空を見上げた。
隣のシャッターには雨粒が激しく打ちつけ、耳に残るほど大きな音を立てている。

そのときだった。

ばしゃ、と水たまりを踏む音がして、誰かがこちらへ駆け込んでくる気配がした。

反射的に幸子は身を引いた。
同時に、背の高い男性が勢いよく軒下へ滑り込んで来る。

白いシャツに濃い色のジャケット。
息を少し乱しながらも、立ち姿には妙なくずれがなくて、雨に濡れた横顔さえひどく整って見えた。

思わず、幸子は目を見開く。

――松澤先生。
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