恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
祖母の手術から数日が経ち、幸子は再び職場へ戻っていた。

いつも通りの時間に出勤し、制服に袖を通し、受付の席に座る。
それだけのことなのに、どこか感覚が違っていた。

目の前にある景色は変わらない。
患者さんとのやり取り、呼び出しのアナウンス、行き交うスタッフ足音。

どれも、これまでと同じはずなのに……。
自分の中だけが、少しだけ変わったような気がする。

パソコンの画面に視線を落とし、指を動かす。
業務は問題なくこなせている。
それでも、ふとした瞬間に意識が逸れる。

――松澤先生。

名前を思い浮かべた瞬間、胸の奥がわずかに熱を帯びた。

あの夜のこと。

言葉。
距離。
触れた温もり。

思い出そうとしなくても、自然と浮かんでしまう。
けれど同時に、ここは職場だという現実が、その感情をそっと押しとどめる。
いつも通りでいなければならない場所。

そう自分に言い聞かせながら、幸子は静かに息を整えた。

そのとき、背後から声が聞こえる。

「ねえ、聞いた?」

小さく抑えた声。

だが、その内容ははっきりと耳に届く。

「松澤先生の話」

指が一瞬止まる。
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