恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「患者さんの家族だから……気にかけてくれただけだよ」

反射的に否定する。

けれど、その声は少しだけ揺れていた。
祖母はそれ以上は追わなかった。
ただ、優しく目を細める。

「そうかしら」

それだけ言って、小さく息を吐く。
押しつけることも、決めつけることもない。
ただ、そっと置いていくような言葉だった。

少しの沈黙のあと、祖母は静かに続ける。

「でも……優しい先生ね」

顔を上げた幸子は、その問いに、少しだけ迷ってから、素直に頷いた。
 
「……うん」

祖母は満足そうに目を細める。

「良い出会いは……大切にね」

「え……?」

「さっちゃん、ひとりで頑張りすぎるから」

その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。

「幸せになって欲しいの」

やわらかな声だった。

背中を押すでもなく、ただ、そっと寄り添うような。

幸子は何も言えず、祖母の手を握り返した。
その温もりが、確かにここにある。

そして、もうひとつの温もりもまた、胸の奥に残っている。

「……大丈夫だよ」

ぽつりと、言葉がこぼれる。
祖母に向けたものか、自分自身に向けたものかは、わからなかった。

けれど、その言葉は確かに本心だった。
祖母は小さく頷き、そのままゆっくりと目を閉じる。

安心したように。
すべてを委ねるように。
病室には、再び静かな時間が戻る。
けれどそれは、もう不安の残る沈黙ではなかった。
やわらかな、満たされた静けさだった。

 
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