恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
子猫が足元に寄ってきて、甘えるように小さな声で鳴いた。
幸子は、しゃがみ込みその頭を撫でる。

あたたかい。

そのぬくもりが、背中を押してくれる気がした。

「……大丈夫」

自分に言い聞かせるように、つぶやいた。


立ち上がり、スマートフォンを手に取る。
画面の中に松澤の名前がある。
今までは、連絡が来るのを待つだけだった。
けれど、もう、それではいけない気がした。

ゆっくりと息を吸う。

胸の奥に、怖いという感情がくすぶっている。

それでも。
このまま何も言わずにいると、きっと後悔する。

メッセージ画面を開く。
考えながら、ひとつずつ言葉を置いていく。

『会いたいです』

打ち終えて、画面を見つめる。
短いけれど、それでいいと思った。
飾る必要はない。
ちゃんと向き合いたいという気持ちが、伝われば、大丈夫。

自分に言い聞かせる。
怖くてもいい。
それでも、選ぶと決めたのだから。

小さく息を吐いて、指を、下ろす。
送信されたメッセージが、画面に残る。
 
静かに、息を吐く。
まだ不安はある。
けれど、それ以上に、前に進んだという実感があった。

「……送っちゃった」

小さく呟く。
返事は、まだ来ない。

それでも、不思議と落ち着いていた。

窓の外、いつの間にか、空は夜に変わっていた。
暗い空の向こうに、かすかに星が見える。
その光を見つめながら、幸子は静かに息を吐いた。

もう、逃げない。
その想いだけが、胸の中で確かに灯っていた。
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