恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
そのとき、テーブルの上に置いたスマートフォンが小さく震えた。
心臓が大きく跳ねる。視線を落とすと、画面が光っていた。


──松澤克樹。

反射的に手を伸ばして、画面を開く。
そこにあったのは、短い一文だった。

『明日、時間ある?』

一瞬、呼吸が止まる。
それだけで、すべてが伝わった気がした。
ただ、会うことを前提に動いている。

すぐに、もう一通届く。

『病院でもいい。外でもいい。都合に合わせる』

そこで、指先が止まった。自分に選ばせてくれている。
それでも、会うという前提だけは揺るがない。その在り方が、松澤らしいと思った。

胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。
怖さはまだ消えない。
それでも、この人となら向き合えるかもしれないと、自然に思えた。

ゆっくりと息を吸い、画面に向き直る。
迷いながらも、ひとつずつ言葉を打ち込んでいく。

『明日、大丈夫です。お話ししたいです』

送信すると、すぐに既読がついた。
それだけのことなのに、少しだけ安心する。

スマートフォンをそっと置くと、子猫が不思議そうにこちらを見上げていた。
しゃがみこんで、その頭を撫でる。

「先生……明日、会うって」

小さく呟くと、子猫は何もわからないまま喉を鳴らした。
その音に、ほんの少しだけ肩の力が抜ける。

けれど胸の奥は、静かに熱を帯びていた。
明日、ちゃんと答えを伝える。逃げずに、曖昧にせずに。
そう決めた瞬間、不思議と呼吸が楽になる。

窓の外を見ると、夜の空に小さな星が瞬いていた。
その光を見つめながら、幸子は静かに息を吐く。

もう、逃げない。
その想いだけが、胸の中で確かに灯っていた。
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