恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「真田先生」

そこで、松澤が落ち着いた声で名前を呼んだ。
わずかに線を引くような響き。
それ以上踏み込ませない、という意思がはっきりと滲んでいた。

真田はその気配を受け取ったのか、ふっと小さく笑う。

「いや、失礼。つい職業柄、問診のようになってしまったね」

軽く肩をすくめる仕草。
その仕草ひとつで、場の空気がほんの少しだけ緩む。

「……素敵な方だ」

ゆっくりと、言い直すように告げる。

その言葉は穏やかだった。
けれど、ただの称賛ではない響きがあった。

――どこか、確信に近い。

そんな違和感が、胸の奥に残る。

「では、ごゆっくり」

そう言って、真田は松澤の両親とともに席を離れようとした。

そのとき、母の智代がふと足を止める。

「倉田さん」

呼び止められ、幸子は顔を上げる。
たおやかな笑みが向けられた。

「今度、改めてゆっくりお食事でもしましょうね」

それが単なる社交辞令ではないことを、幸子は直感的に理解していた。

「……はい」

小さく頷く。
それ以上は、言葉にならなかった。

去っていく背中を見送りながら、幸子はようやく息を吐く。

「……緊張しました」

思わずこぼれる。
そんな幸子を松澤は優し瞳で見つめた。

「大丈夫だ。よくやったよ」

「そうですか?」

「ああ」

そのやり取りに、少しだけ力が抜ける。
けれど、ふと気になった。
自分に向けられたあの真田からの視線……。
いったい何を見ていたのだろうか。
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