恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
真田は、ほんの少し視線を落とす。

「ちょうどその頃、私は海外へ出る話が決まり、彼女と離れたくなくて……プロポーズをした」

幸子の胸が、わずかに揺れる。

「だが……断られた。理由ははっきりとは言わなかったが……今になって考えれば、私の将来を考えてくれてのことだろう。ただ、当時はショックでね」

一瞬だけ、苦い影がよぎる。

「実際、向こうに行ってからは、自分のことで精一杯だった。それに……振られた手前、それきり連絡もできなくて」

言葉が、静かに積み重なっていく。

「別れてから、今日まで、彼女とは一度も会っていない」

幸子は、息をするのも忘れて聞いていた。
頭の中に浮かぶのは、母の姿。何も語らなかった理由。あのときの穏やかな笑顔。

「……ただ、君の年齢を考えると」

言葉がうまく出てこない。それでも、繋がってしまう。
真田は、まっすぐに幸子を見た。

「千賀子さんは、私に何も告げずに……。君を産んだ可能性がある」

その一言で、空気が変わった。
指先が、わずかに震える。

否定したい。
けれど、思い当たることがある。

母は何も語らなかった。
それは、隠していたのではなく、守っていたのかもしれない。

その理解が、胸の奥に静かに落ちていく。
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