恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「倉田は、倉田だ。何も変わらない」

耳元で、低く断言される。

「俺がいる限り、絶対に変えさせない」

その声は強かった。

ただの優しさではない。
覚悟を持って言い切る声音だった。

涙が、止まらない。
けれど、不思議と苦しくはなかった。
ただ、あたたかかった。

真田はその様子を静かに見つめていたが、やがてゆっくりと口を開く。

「千賀子が……私に別れを告げたとき、何も言わなかった理由を、今になって考えることがある」

ほんのわずかに視線を落とす。

「守ろうとしてくれていたのかもしれない。私のことも……そして、君のことも」

真田は顔を上げ、幸子を見つめた。

「でも……。もしも、あの時……と振り返らずにはいられない。私の横に千賀子が居て、二人で……笑いながら、君を育てていたんじゃないかと」

泣くのを堪えているのか、真田の目を潤ませながら、吐露する。

「あきらめずに連絡をしていたら、と……後悔しても、しきれない……」

言葉が続かないのか、手を握り込み、奥歯を噛みしめた。
暫くして、やっと言葉を紡ぐ。

「……急がなくていい。これからのことは、時間をかけて決めていけばいい」

押しつけるでもなく、距離を詰めるでもない。
ただ、そこに在るという事を伝えようとしていた。

まだ心の整理がつかない幸子だったけれど、小さく頷きながらそっと、松澤の服を掴んだ。
それに気づいた松澤は、ふっと口元を緩め、優しく微笑む。

それだけで、心が穏やかになる。
いまのままの自分で良いのだと、思えたから。
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