恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
真田の言葉。
松澤の腕の温もり。
自分の知らなかった過去。
いろんな感情が一度に押し寄せて、幸子はうまく呼吸ができないような気がした。
そんな彼女を見つめ、松澤がゆっくりと髪に触れる。
「……少し、落ち着いたか?」
低く穏やかな声だった。
幸子は小さく頷いたものの、まだ胸がいっぱいで、うまく言葉にならない。
すると松澤は、安心させるように目を細めた。
「今日は、もう何も考えなくていい」
その言葉に、また涙が滲みそうになる。
張り詰めていたものが、少しずつほどけていく。
幸子はそっと視線を落とした。
すると、不意に指先へあたたかな感触が触れる。
松澤の手だった。
大丈夫だと言うように、優しく包み込まれる。
その温もりに導かれるように、二人は静かに研究室をあとにした。
研究室を出たあとも、二人はしばらく無言のまま歩いていた。
夕方の空気は静かで、さっきまでの出来事がまだ胸の奥に残っている。
ふいに、隣の手が触れ、自然に指が絡められた。
大きな手に包まれ、幸子は細く息を吐く。
今は、その温もりだけで十分だった。
ふいに視線が絡む。
ほんのわずかな間が落ちる。
それはためらいではなく、確かめるような静かな時間だった。
このまま進んでもいいのかと、言葉にしないまま問いかけるような。
ゆっくりと、距離が縮まる。
息が触れそうなほど近くなって、それでも目を閉じることができなくて。
そのまま――触れた。
やわらかく、静かなキスだった。
けれど、それだけで終わらない。
だんだんと、キスが深くなる。
離れる気配がない。
むしろ、確かめるように、もう一度重なる。
背中に回された手に、わずかに力がこもる。
逃がさないというより、ここにいろと言われているような温もりだった。
やがて、ゆっくりと唇が離れる。
息が、うまくできない。
それでも、目を逸らすことはできなかった。
「……好きだ」
すぐ近くで落ちた低い声は、静かで、それでいてはっきりとした意思を含んでいた。
幸子は、小さく首を振る。
「……私も、好きです」
声に出した瞬間、自分でも驚くほど、はっきりとした気持ちになっていた。
その言葉を聞いた瞬間、再び腕が引き寄せる。
今度は、迷いがなかった。
さっきよりも、深く。
さっきよりも、強く。
重なる熱に、幸子はそっと目を閉じた。