恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
湯呑みを包み込むように持ちながら、幸子はしばらく言葉を探していた。
胸の奥にあるのは、はっきりした感情ではない。
驚きとも、不安とも、少し違う。

ただ、整理のつかない何かが、静かに広がっている。

「……おばあちゃん。私……どうしたらいいのか、わからない」

祖母は、何も言わずに頷き、幸子の言葉を待った。
すると、幸子からぽつりと、言葉がこぼれる。

「お父さんなんて、いないって思ってたの。
いないのが当たり前で……それでいいって思ってたのに」

指先に、少しだけ力が入る。

「急に、いるって言われても……どうやって考えたらいいのか、わからなくて……」

祖母は、ゆっくりと息をついた。

そして、静かに口を開く。

「そうよね。いきなり“親です”なんて言われても、困るに決まってるわ」

少しだけ、やわらかく笑う。

「……でもね」

祖母は、少しだけ視線を遠くに向けた。

「千賀子は、その人を嫌いで別れたわけじゃないと思うの。好きだからこそ、離れたんじゃないかしら」

静かな声だった。
けれど、その中にある意味は重い。

「だからこそ……あんたのことも、一人で育てるって決めた」

幸子は、何も言えなかった。

「その人もね。あなたの存在を今日まで、知らなかったんでしょう?」

「……うん」
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