恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
幸子は反射的に顔を上げた。
そこに立っていたのは、松澤の母・智代だった。
上品なネイビーのワンピースに身を包み、姿勢よく立つその姿には、自然と人の視線を集めるような華やかさがある。

その隣には、穏やかな空気を纏った男性――松澤の父・昌弘が立っていた。

「待たせてしまったかな」

低く落ち着いた声。

「い、いえ!」

幸子は慌てて立ち上がる。
その瞬間、緊張で膝が少しだけ強張った。
すると、隣からそっと松澤の手が触れ、大丈夫だと伝えてくれる。

「母さん、父さん、今日は来てくれてありがとう」

松澤が静かに声をかける。
智代はゆっくりと幸子へ視線を向けた。
その視線に、幸子の背筋が無意識に伸びる。

智代は静かに席へ腰を下ろす。
昌弘も続き、四人が向かい合う形になる。
改めて、“結婚の報告”という現実が、幸子の胸へ重く落ちた。
指先に、また少しだけ力が入る。
すると、テーブルの下で、松澤の手がそっと重なった。
驚いて視線を向けると、松澤は前を見たまま、小さく親指で幸子の手を撫でる。
それだけで、不思議と呼吸が整った。

智代は、その様子をちらりと見て、静かに紅茶へ口をつける。
けれどその横顔には、以前ホテルラウンジで会ったときほどの厳しさはもうなかった。

「幸子さん、克樹との結婚後も、お仕事は続けるのかしら?」
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