恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
気づいたときには、幸子の体は動いていた。

「大丈夫ですか!?」

自分の服が汚れるのも構わず、その男性へ駆け寄る。

「……意識、ありますか?」

顔色は悪く、呼吸も浅い。

「すみません、どなたか――」

言いかけたその瞬間、背後から低い声が重なった。

「スタッフを呼んでくれ。すぐに!それと救急車を!」

松澤だった。
振り返る間もなく、すぐ隣に立っている。

「自分のお名前言えますか?痛みは、感じますか?」

松澤はしゃがみ込み、患者の状態を確認する。

「意識レベルⅢー200だ。AEDがあるなら、用意してくれ!」

周囲に聞かせるように、落ち着いた声で言う。
その指示で、場の空気が一気に動き出した。
幸子はその流れを支えながら、体勢を崩さないようにそっと補助する。

「……少し楽になりますから」

小さく声をかけ、男性のネクタイを緩め、すぐに処置ができるようにした。

スタッフが駆け寄り、周囲の客も自然と距離を空ける。

「AEDは!?」

「はい、今、持ってきます!」

別のスタッフの手によって、機器が運ばれてくる。
松澤は迷いなくそれを受け取り、手早く電源を入れた。

「みんな離れて!」

落ち着いた声で告げながら、的確に処置を進めていく。
その手の動きに、一切の迷いはない。

(……すごい)
改めて、思う。
命を救うことに迷いがない。
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