恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
さらにノートをめくると、真田と別れた後の記述が続いていた。

『邪魔したくないと言ったけど、すごく寂しい』

『食欲もわかない』

『生理が遅れている。
 もしかしたらと思って病院へ行ったら、やっぱりそうだった』

ページの文字が、少しだけ震えている。

『彼の赤ちゃんが、お腹にいる。
 不安より先に、嬉しいと思ってしまった』

急いで書き留めたような文字だった。
けれど、その行だけは、何度もなぞるように丁寧に書かれている。
幸子の喉が、かすかに詰まる。

『きっと、私はこの子を産む。
 一人でも、この子を大切に育てたい』

気づけば、幸子の目にはうっすら涙が滲んでいた。
ノートを閉じ、そっと胸元へ抱き寄せる。
その間に挟まっていた写真。
母と真田が、寄り添って笑っている。
その姿を見つめた瞬間、胸の奥で何かが静かに繋がった気がした。

胸の奥が、ぎゅっと苦しくなる。
けれど、不思議と嫌な苦しさじゃなかった。
長い間、自分の中で噛み合わなかったものが、ゆっくりとひとつに繋がっていく。

真田が父親だと聞かされたときも、頭では理解していた。
DNA鑑定の結果も受け入れた。
でも、どこか現実感がなかった。
“事実”としてはわかっていても、“感情”が追いついていなかったのだ。

けれど今、ようやく腑に落ちる。
母が、本当に愛した人だったのだと。
だから、自分はここにいるのだと。
静かな部屋の中で、幸子はゆっくりと息を吐いた。
窓の外では、夕暮れの光が少しずつ色を変え始めている。
その柔らかな光の中で、幸子はもう一度だけ、写真をそっと撫でた。
まるで、母の想いに触れるみたいに。
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