恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
「先生」

まだ、“お父さん”とは呼べない。
けれど、その距離をごまかしたくもなかった。

「お願いがあります」

真田の表情が、静かに強張る。
幸子は、膝の上でそっと指を握りしめた。

「バージンロードを……一緒に歩いてもらえませんか」

その瞬間だった。
真田の呼吸が、目に見えて止まる。
時間まで止まったような沈黙。
真田は、しばらく何も言えなかった。
ただ、信じられないものを見るみたいに、幸子を見つめている。
やがて、真田は、顔を覆うように片手を目元へ当てた。

「……参ったな。そんなことを言われたら……断れるわけがない」

その声は、笑っているのに、少し震えていた。
幸子の胸の奥も、じんわり熱くなる。
隣で、松澤が小さく息を吐いた。
その横顔は、どこか安心したようにも見えた。

窓の外では、午後の光が静かに揺れていた。
その穏やかな光の中で、幸子は初めて、家族という言葉を少しだけ現実として感じていた。
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