恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
柔らかな朝の光で、幸子はゆっくり目を開けた。
知らない天井。
けれど、すぐ隣から伝わるぬくもりに、昨夜のことを思い出す。
途端に顔が熱くなった。
「……っ」
逃げるように身じろぎした瞬間、腰へ回された腕に軽く引き寄せられる。
「どこ行く」
掠れた低い声。
振り返ると、松澤がまだ眠たそうな目でこちらを見ていた。
いつもの冷静な医師の顔とは違い、無防備で、けれど妙に色気がある。
「お、お水……」
「あとでいい」
即答だった。
そのまま額へキスが落ちる。
「……もう少し、このまま」
低く囁かれ、幸子の心臓が跳ねる。
左手の薬指で、指輪が朝の光を反射していた。
松澤の唇がそこへ触れる。
薄く開いた瞳には隠しきれない熱が滲んでいる。
幸子は、また顔が熱くなるのを感じながら、小さく笑った。
「あの雨の日……克樹さんに、出会えてよかった」
「そうか?」
松澤は、ゆっくりと幸子を抱き寄せる。
広い胸に抱かれ、幸子はポツリと言う。
「ひとりになるんじゃないかと、怯えていた私に……家族ができました」
母親を亡くし、祖母と二人きりで暮らしてきた。
その祖母も松澤に命を繋いでもらった。
不意に涙が滲みそうになる。
気づけば、こんなにも増えていた。
真田。
松澤の両親。
そして、夫となった克樹。
失うことばかりを怖がっていた自分が、今は、誰かと未来を重ねようとしている。
胸の奥に広がる温もりを感じながら、小さく目を細めた。
「家族か……俺たちに子供ができたら、もっと増えるな」
「……ミルクも、ちゃんと家族ですよ」
「もちろんだ」
思わず、くすりと笑みがこぼれる。
きっとこれから先、泣く日も、迷う日もある。
それでも、一人じゃない。
沖縄の青い海が、朝の光を受けて静かに輝いていた。
松澤は幸子を強く抱きしめた。
その腕の中で、幸子はそっと目を閉じる。
もう、未来を怖いとは思わなかった。


