恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
面談室を出てからも、幸子の胸の奥は、安堵と不安の間で、複雑に揺れていた。

祖母はあくまで穏やかに振る舞い、「大丈夫よ」と何度も笑ってみせたが、その明るさがかえって胸に重くのしかかる。
幸子の心はどこか現実から取り残されたままのようだった。

――手術。

その言葉の重みが、頭の中で何度も繰り返される。

成功率は高いと説明された。
過度に心配する必要はないとも言われた。
松澤先生のことも信用している。

それでも、「もしも」の可能性が完全に消えることはない。
もし、何かあったら。
その考えが浮かぶたびに、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

それでもなんとか、祖母を病室まで送り、帰り道を歩き進める。
家が見えると、幸子はようやく小さく息を吐いた。

玄関を開け、名前を呼ぶ。

「ただいま、ミルク!」

「にゃあ」

そっと抱き上げると、小さな身体の温もりが腕に伝わってくる。
その温かさに、ほんの少しだけ気持ちが緩む。
けれど、胸の奥に沈んだ不安は、完全には消えていなかった。
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