恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
祖母が、ふっと笑う。

「先生、頼もしいわねぇ」

「専門ですから」

そう言った松澤の横顔はどこかやわらいでいた。
そして、祖母はゆっくりと松澤を見つめた。

「先生」

「はい」

穏やかな声で呼びかけると、少しだけ間を置いて続ける。

「この子ね……昔から、あまり人に頼るのが得意じゃないの」

幸子ははっとして顔を上げた。

「おばあちゃん……」

止めようとするが、祖母はやわらかく微笑むだけだった。

「中学のときにね、この子の母親が事故で亡くなって……それからは、わたしと二人でやってきたの」

静かな語り口だった。
けれど、その一言一言に積み重ねてきた年月がにじむ。

「さっちゃんはいい子だから、誰にも迷惑かけないようにって、何でも一人で抱え込んでしまうのよ」

幸子は視線を落とした。
祖母はもう一度、松澤を見つめる。

「だからね……。もし入院が長くなったり、何かあったときに……この子が無理をしないか、それが一番心配で」

その言葉には、家族としての切実な想いが込められていた。
窓から温かな光りが差し込む。
松澤は何も言わず、ただ静かにその話を聞いていた。
そして、ゆっくりと視線を幸子へ向ける。
まっすぐな眼差しだった。

「……大丈夫」

ぽつりと、低い声で言う。
それは誰に向けた言葉なのか、はっきりとはわからない。

「手術は俺が執刀します」

そう言ってから、ほんのわずかに言葉を切る。

「最善を尽くします」

幸子の胸が、強く揺れる。
祖母が、安心したように微笑んだ。

「先生、よろしくお願いします」

その声は、どこかほっとしたようにやわらかかった。

 
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