恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
家族以外の誰かに助けを求めたのは、いつ以来だろう。

いや、もしかしたら初めてかもしれない。
誰にも頼らずにやってきた日々の中で、不安を口にすることは、いつの間にか遠ざけていたからだ。
ほどなくして、返信が届いた。

『何でも、話しを聞くから』

それを見た瞬間、言葉が胸の奥に静かに落ちていき、不思議と呼吸が楽になる。

インターホンが鳴ったのは、すっかり暗くなった頃だった。
幸子はゆっくりと立ち上がる。
胸の奥のざわめきは消えていない。
それでも、先ほどよりもずっと、足取りは軽かった。

玄関の戸を開ける。

そこに立っていたのは、やはり松澤克樹だった。

「……こんばんは」

いつもと変わらない、落ち着いた声。
それだけなのに、ひどく安心する。

「先生……」

言葉を返そうとして、うまく声が出ない。
それでも小さく頷くと、松澤は何も言わずに中へ入った。

居間に入り、ジャケットを脱いで椅子に腰を下ろす。
幸子は、台所で淹れたコーヒーを出した。
ふわりと香ばしい匂いが立ちのぼる。
無理に言葉を探す必要のない、静かな空気がそこにあった。
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