恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
しばらくして、幸子がぽつりとつぶやいた。

「……怖いんです」

気づけば、そう口にしていた。
自分でも驚くほど、素直な声だった。

「大丈夫だって言われても……先生のことは信じているのに……。もしものことを考えてしまって」

言葉が少しずつほどけていく。

「おばあちゃん、ずっと一緒にいてくれた人だから……」

そこで声が詰まり、視線が落ちる。
それ以上は、うまく言葉にならなかった。
松澤は何も言わず、ただ静かに聞いていた。
急かすことも、遮ることもなく、ただそこにいる。

「もし、おばあちゃんが居なくなったらって思うと私……本当にひとりになっちゃう……」

「大丈夫だ。ひとりには、ならない」

低い声が、静かに落ちた。
幸子は顔を上げると、松澤がまっすぐにこちらを見ていた。

「手術は俺がやる。失敗しない」

その言葉は、本来なら強すぎるはずなのに、なぜか心にスッと沁み込んだ。
むしろ、その確信に触れた瞬間、胸の奥の不安が消えていく。

「……それでも不安なら、吐き出せ」

言葉の中にある優しさは、はっきりと伝わってきた。

「聞いてやる。ひとりで抱えるな」

その言葉に、視界がわずかに滲む。
こんなふうに言われたことは、なかった。
ずっと、一人でやるのが当たり前だったから。

「……はい」

小さく頷き、ぽつりぽつりと、心に仕舞い込んだ言葉を吐露する。
母子家庭で育ったこと。
その母が突然事故で亡くなってしまったこと。
それからは、祖母と二人で暮らしていること。
祖母は、幸子にとって、辛い時に支えてくれた唯一の家族。
その、祖母がもしも、居なくなったら……。

その言葉を松澤は、頷きながら受け止めてくれた。
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