恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
夜の坂道を下る足音が、静かに重なった。
その距離は近すぎるわけではない。
それなのに、意識してしまう。
沈黙が、苦しくない。
それがかえって、心をざわつかせた。

「倉田」

名前を呼ばれた瞬間、ぴくりと肩が揺れる。

「今日、避けてたな」

「……そんなこと」

否定しようとして、言葉が続かない。
自分でも、意識的に避けていたと、わかっていた。

松澤は足を止めた。
それにつられて、幸子も立ち止まる。

向き合う形、逃げ場のない距離。

街灯の光が、互いの表情をはっきりと照らしていた。

「理由は?」

短い問い。
それだけで、心の奥にしまっていたものが揺れる。
幸子は指先をぎゅっと握りしめた。

「……噂、聞きました。理事長の娘さんと、縁談があるって……」

言葉にした瞬間、現実味を帯び、胸が締めつけられる。
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