恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
仕事を終え、病院の外へ出たとき、夜の空気がひんやりと頬に触れた。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返った空間の中で、幸子の胸の奥は、まだざわついたままだった。

落ち着かない。
理由はわかっているのに、どう整理すればいいのかがわからない。

足は自然と、正面玄関の脇へと向かっていた。
行かないという選択肢は、最初からなかった。
診察時間をすぎ、照明を落とした正面玄関は、閉じられている。
この時間は、逆に人気(ひとけ)がない。

奥にある自販機の明かりのところに、人影があった。

松澤克樹だった。

壁にもたれるでもなく、ただ静かに立っている。
視線が絡んだ瞬間、逃げられないと直感する。

「……お疲れさまです」

声をかけると、松澤は軽く頷いた。

「お疲れさま」

そのまま、二人の間に沈黙が落ちる。

数歩の距離。
近すぎず、遠すぎないはずなのに、妙に意識してしまう。

「少し歩くか」

そう言って、松澤がゆっくりと歩き出す。
幸子は一瞬だけ迷い、小さくうなずく。
並んで歩き出す。
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