恋の雨が降るとき 〜クールな外科医は甘く囁く~
家に帰った幸子は、腰高の窓を大きく開けた。
夜空には、切れそうな三日月が浮かび、近所の家からは温かそうな明かりが漏れている。
幸子の胸の内側は、落ち着かずに揺れていた。
部屋の灯りはついているのに、どこか現実感が薄い。
テーブルの上には、祖母の手術にあたっての書類が揃えられている。
何度も確認したはずなのに、もう一度手に取り、書き洩らしがないかを確かめる。
間違いがあってはいけない。
そう思うほどに、指先に力が入った。
そのとき、小さな気配が近づいてくる。
「にゃあ」
子猫のミルクが足元に寄り添う。
幸子はしゃがみ込み、その小さな身体を抱き上げた。
あたたかい。
その温もりが、張り詰めていた心をほんの少しだけ緩める。
「……大丈夫、だよね」
誰に向けた言葉かわからないまま、小さく呟く。
成功率は高いと聞いている。
担当は松澤だ。
それでも、不安は拭いきれない。